11月30(木)付けの各新聞紙で、国際学力調査で日本の小・中学生が良い成果を残し「脱ゆとり」の成果だと、はやされています。
この「ゆとり教育」を受けた世代ってかわいそうですね。
自分たちで望んで「ゆとり教育」というわけではないのに、「ゆとり」「ゆとり」と言われています。
さらにここで、「ゆとりは間違っていた、やめてよかった。」と、世間が言っているようなものです。
わかりました。私が
「ゆとり世代」にみかたします
まず、そもそもですが
ゆとり教育の時代、本当に学習内容は簡単になっていたのでしょうか?
まちがいなく、そんなことはありません。
ゆとり教育だろうがそうでなかろうが、各大学が大学入試で求めるレベルは変わりませんでした。(それはそうですよね。東大や京大がゆとり教育だからって入試問題を簡単にしたら日本は終わりです。)
大学入試までにやらなければいけないのに、小学生や中学生のうちにできることをやらせておいてもらえない、ゆとり以前やゆとり以降の人たちより大変な思いをしたのは間違いありません。
同じどころか 数学の負担は増えました
私が1991年、センター試験で数学を受けたとき必要だった単元は
数学Ⅰ:「数と式」「2次関数」「三角比」「図形と方程式」
数学Ⅱにいたっては、当時「確率」は必修ではなく「確率」さえ選択すれば、「三角関数」「指数・対数関数」「微分・積分」が免除され、なんと「ベクトル」と「確率」の2つだけで済みました(50点ずつの配点でした)。
ですから、センター対策の数学の勉強などほとんどしなくてすみました。
それに対して、ゆとり教育の時代にセンター試験の数学で必要とされた単元は
数学ⅠA:「数と式」「2次関数」「三角比」「組合せと確率」「図形の性質」
数学ⅡB:「複素数」「図形と方程式」「三角関数」「指数・対数関数」「微分・積文」「ベクトル」「数列」
(赤で示したのが、私がセンター試験を受けたときに比べ増えた単元です。)
とくに数学ⅠAの「図形の性質」が大変です。
これはゆとり教育で、中学で図形に関する学習内容が極端に減ったため高校に持ち越されたものです(ひどい話ですね)。
ただし中学の図形内容に絞られず、それまで選択で一部の人だけやればよかった高校の図形内容をすべての人がやらなければならなくなりました。(今でも残っていますが、多くの方が苦戦している単元です。)
他の教科も、ゆとり世代は大変でした
少し自慢話をお許し下さい。私自身は、センター試験で「世界史」も満点でした。
しかし、中学で学んだことに適切に肉付けしていき、うまくいっただけです。
それに対し、「ゆとり世代」では中学で世界史内容はほとんど出てきません。
ですから、「ゆとり世代」でセンター世界史で満点をとった方は私の数十倍すごいといえます。
中学校でもゆとりではありませんでした
ゆとり教育が始まるとき、各教科で3割削減がノルマのようにありました。無理にでも3割削られました。
たとえば日本史で1825年「外(異)国船打払(うちはらい)令」というものがあります。
1825年の段階で江戸幕府はまだ諸外国との交易はもたないつもりであった。
ところがその後1840年のアヘン戦争により欧米列強の力を見せつけられ、1853年アメリカのペリーが来航し開国を余儀なくされる、という歴史の重要事項です。
この「外国船打払令」も、泣く泣く削減されました。
しかし、さすがにこれを無くすと話の流れがかなり苦しくなるので、多くの教科書で地図などの脚注で「1825年の段階では、幕府はまだ鎖国を続けるつもりでした」などと入れていました。
ある程度の情報があり、初めて全体像が見えてくるものです。
ほかの教科も同じです。
ゆとり教育時代の教科書の内容で全体像をつかめというのは、かなり高い能力が求められました。
それだけではありません。
覚えれば済む内容が3割も減りました。それでも各高校は入試で公平な方法で生徒を選抜しなければなりません。
どうなったかわかりますか?
教育関係の仕事をしている人以外には意外なことに聞こえるかもしれませんが、実はごく当たり前のことです。
入試問題が難しくなりました
問題の難しさで差をつけるしかないですから、仕方ないですよね。
私自身は静岡の公立高校入試の問題しかみていませんが、全国的に見てもこれは同じでしょう。
特に数学の難易度のインフレはかなりのものです。
私がみてきた生徒たちで数学がかなりできる生徒でも、入試の問題を見て「学校でここまで難しいものやってないじゃん。」という人が多いです。
彼ら彼女らが言っていることはもっともで、おかしい話といえばおかしい話です。
小学校でもゆとりではありませんでした
ゆとり教育が始まるとき、ゆとり教育推進派にも「3桁のかけ算のやり方を教えないでいいのか?」あるいは「3桁のかけ算ができなくてもいいのか?」というような批判が当然ながら数多くよせられました。
結局できるようにならないといけないので当然の批判です。
それに対する推進派の反論は、以下のようなものでした。
「別に3桁のかけ算のやり方を教えないわけではない。
2桁×2桁のかけ算はしっかり説明しているし、
3桁の数が出てきたとしても例えば”316×27”ならば”300×27”と”16×27”に分けて考えられることも説明している。
あとはそれぞれの子がどうするかだ。」
というような旨のことです。
これが「ゆとり教育」の本質であったように思います。
「ゆとり」ではなくて「試練」ですね
「ゆとり世代」と呼ばれる世代の方々は、自分たちの世代を「ハンディを持ちながらも前後の世代に負けない、それどころかそれ以上のパフォーマンスを発揮してきて、しかもこれからも発揮していく世代」ととらえていいでしょうね。
以上です。
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富士宮教材開発
井出真歩
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